【Vol.054】他事務所と“戦わずして勝つ”ための顧問契約提案大義

　会計事務所は、何のために顧問契約をするのでしょうか。そう問うと、確かに『会計事務所の経営を安定させるためだ』という答が見つかるかも知れません。
　しかし、企業経営者は“なぜ顧問契約をする”のでしょうか。そして“どのような顧問契約”が、会計事務所の経営を安定させるだけではなく、企業経営に“資する”のでしょうか。
　今、そんな考え方を突き詰めて“明確化”すべき時なのかも知れません。そうしなければ、顧問契約提案に迫力が出ないばかりか、顧問契約提案活動を“積極化”しようという気力さえ、起きて来ないかも知れないからです。

【０１】会計事務所業界全体の“顧問契約条件”を悪化させる要因

　 “顧問契約提案”に際し、ぐいぐい“背中”を押してくれるような（ちょっと古い言い回しですが）“理論武装”をしておかないと、困った事態に至ることがあります。それは、顧問契約提案に積極的に取り組めないというばかりではなく、“提案内容”まで影響されるケースがあるからです。
もちろん皆が皆そうではありませんが、経歴の浅い会計事務所の中には、自事務所の業務の価値に“自信が持てない”方がおられます。それでも、そんな先生が、勇気を振り絞って顧問契約提案をすると、ベースにある“弱気”故に、顧問料を必要以上に安価にしたり、顧問料の範囲内で、付加価値業務やコンサルティングまで、“何でもします”と誤解されかねない提案内容に陥ったりしてしまうのです。
　それが、業界全体の“顧問料水準低下”や“際限なき無料奉仕”の構造を作り上げてしまっているかも知れません。“理論武装”不足の一つのあらわれです。

【０２】安価な顧問契約を提案する他事務所への対抗手段

　一方、ベテランの先生方が顧問契約提案に取り組まれる際、低下傾向にある顧問料水準が気になることがあるでしょう。先生方が気にしなくても、企業経営者が『もっと安い事務所がある』と言い出すかも知れないのです。そんな時、どう対抗するか決まっているでしょうか。
　その“対抗手段”こそが、“理論武装”の大きな役割だと言えるかも知れません。逆に言うなら、今、顧問料水準を維持する一方で、経営者に“際限なき無料奉仕”を求めさせないための“大義名分”が、会計事務所業界に欠けているかも知れないという“懸念”が強いのです。
　しかし、ここに一つの大きな問題があります。

【０３】それは“差別化”で解消できるとも思えない？

　実績豊かな会計事務所が、こう言ってよければ未熟意識故に顧問料をディスカウントしてしまう事務所と“対抗”する時、どんな“差別化”を図ればよいのでしょうか。違いを浮き彫りにして、経営者に理解させるべきは何なのでしょうか。
　こうした課題に正面から取り組み始めますと、多々得るところはあったとしても、早晩、『何を言っても、結局経営者が理解しなければ（経営者の意識が低ければ）意味がない』という思いにぶつかります。そもそも、顧問契約の当事者たる経営者が、“顧問料水準”以外に“理解”できるものがなければ、安価な事務所に契約が流れる事態を、止めることは難しいからです。
　ここに、一つの“視点”が必要になります。

【０４】今大切なのは“戦わずして勝つ”大義！

　その視点とは、古代中国の“孫子の兵法”にあるように、“戦わずして勝つ”方法を考えることです。どんなに優れた事務所でも、安売り事務所と“まともな内容比較”に陥ると、難しい状況に追い込まれる危険があります。たとえ難しい状況にはならなくても、比較をし、その結果を経営者に“理解”させるという“手間”は避けられません。
　そこで“他の事務所”との比較の話にならないような“大義ある顧問契約提案”を考える必要があると申し上げたいわけです。“戦わずして勝つ”チャンスを増やすためです。ただ、そんな“大義”があり得るのでしょうか。

【０５】経営の方向性（ベクトル）を示せば…

　コンサルティング能力や、資金繰り管理、あるいは経営計画支援など、個別具体的な“内容”を強調すればするほど、会計事務所は他事務所と比較されます。しかし“経営者が今どんな課題に取り組むべきか”という方向性を示唆することができれば、もはや経営者に“他事務所との比較の必要性”がなくなるはずなのです。
　それでもなお、企業側が士業事務所の“比較”に走ったとしても、実際上、比較には至らないでしょう。経営者にとって、“自分がすべきこと”を示唆された時、それを実行できる事務所を選定するのは、至難の業だからです。経営者には、士業事務所の業務レベルを査定する尺度がありません。
　もちろん、“大義”を示して、経営者に“すべきこと”を示唆した後でも、会計事務所が実行するのは、あくまで決算中心の業務かも知れませんし、そこに付加価値業務が加わるかも知れません。それは他事務所でも行うことです。
　しかし、同じ業務も、その“方向性（ベクトル）”の有無で、大いに変わり得るのです。

【０６】業歴の長短に関わらず会計事務所が強くなる？

　そのため、業歴の浅い先生が、ベテラン事務所と競合した時、“方向性（ベクトル）”設定で勝つケースがあり得るのです。あるいは、既存の顧問契約を防衛したい際に、『企業は、ただ決算をすればよいというものではありませんからね。御社経営にとって、適切なマネジメントの方向性（ベクトル）に従わないと…』として、競合相手に“活躍の場”を与えないポジションをとることもあり得るのです。“マネジメント（指導）のの方向性”提示には、経営者の視線を自事務所に釘付けにしてしまう“威力”を期待できるのです。
　逆に、マネジメント（指導）の方向性（ベクトル）を持たず、単に“確実な決算”や“コンサルティング・テーマ”などを個別に打ち出すなら、経営者にとって“安価な契約”に越したものはなくなるでしょう。どの事務所が最も“適切”かが分からない時には、選択上のリスク回避の意味でも、“最も安いオファーを選ぶ”のが、妥当かも知れないからです。
　では、今、どんな方向性（ベクトル）が、会計事務所の活躍の場を拡張してくれるのでしょうか。

【０７】その方向性（ベクトル）とは…？

　もちろん、効果的な方向性（ベクトル）は一つではありませんが、今、効果的と言えるのは、“マネジメントの内向化”だと考えられます。“内向化”がネガティブに聞こえるなら、まず、先生方の意識から変えていただかなければならないかも知れません。
　世の中が勢いよく活動している時、そうでなくても、事業チャンスが“あちこち”に転がっている時、経営者は“外”に目を向ける必要があります。つまり、顧客や取引先、関係者や同業者の動向に必死にくらいついて、“新たなチャンス”を見逃さないようにしなければなりません。
　しかし、もはや“外”にチャンスが乏しい時には、“外”ばかりを向いていたのでは、何も得られないのです。“外向”から“内向”へ、経営視線は変化しなければなりません。

【０８】いつまでも荒涼たる“外”ばかりに目を向けるべきではない！

　経営上の“内向”対象には、企業の施設や設備、あるいは既存商品や既存ノウハウ等、様々な項目があり得ますが、先生方にとって重要な提案要素は、申し上げるまでもなく“経営管理”の重要性に他なりません。
　しかし、企業が導入すべき“経営管理”は、経営者が内容を理解でき、自分でコントロールする“レベル”でなければならないのです。実践経営の場で、理想を語る理論は、役に立たないどころか有害でさえあるでしょう。ある意味では、従来“理論”ばかりを語られて来たから、今、企業経営者は“経営管理”の重要性に気付かないままなのかも知れません。
　そして、以前の“経営感覚”を引きずり、いまだに“経営管理”や“業績管理”をおろそかにするからこそ、価格設定の失敗や過剰投資、過剰金融などを通じて窮地に陥る中堅中小企業が増えているとも考えられるのです。
　逆に、ちょっとした価格の見直しばかりではなく、売掛サイトの長短を取引案件ごとに見直すだけでも、利益を確保するとともに、資金繰りの厳しさを緩和するための第一歩につながるかも知れないのです。それは、会計事務所の特別のコンサルティングではなく、むしろ“決算資料”、“決算データ”の作り方の問題かも知れません。必ずしも“新しい付加価値”に取り組む必要はないのです。

【０９】一つの大義による顧問契約提案ストーリー

　そんな考え方、つまり、①会計事務所のビジネスの良好顧問契約のチャンスを広げよう、②その際“戦わずして勝つ”大義を形成しよう、③今、その大義は“内向志向”にあるという考え方から、一つの“顧問契約提案ストーリー”を作成してみました。
　これは、従来のように“文書”として完結したものではなく、むしろ“パワーポイント”で要点を示す“柔軟性”を有するものです。先生方が、様々に“応用”される状況を想定したからです。しかし、芯は変わりません。
　もはや、見るべきものがなくなった外の荒野に目を向けて、ため息ばかりをついている経営者に、“内なる宝”の存在を気付かせ、その“宝”を活性化することこそ、今、会計事務所が企業経営者にできる最良の経営指導の一つかも知れません。
　今回作成した“顧問契約提案ツール教材”には、従来からお勧めしている“テーマを絞ったスポット提案”と両輪で、企業経営者アプローチの道を、より充実させようという意図も込めました。

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